タイ労働者保護法2025年改正|産休120日だけではない、会社が実務で確認すべきこと

タイ労働者保護法2025年改正|産休120日だけではない、会社が実務で確認すべきこと

タイでは、2025年12月7日より、労働者保護法の改正が施行されました。
今回の改正では、産休の延長を中心に、出産・育児に関する休暇制度が大きく見直されています。

多くの解説では、今回の改正は「産休が98日から120日に延長された」と紹介されています。
もちろん、それ自体は重要な変更です。

しかし、会社の実務としては、単に「産休を120日に変更すればよい」という話ではありません。

今回の改正では、次のような点を確認する必要があります。

  • 産休とは、そもそも何を指すのか
  • 出産後だけでなく、妊婦健診の休暇も含まれるのか
  • 会社が賃金を支払う日数は何日か
  • 月給制と日給制・時給制で給与計算上の考え方が違わないか
  • 配偶者出産支援休暇は、男性社員だけの制度なのか
  • 既存の就業規則や雇用契約をどう確認すべきか
  • 法律を上回る福利厚生を、誤って引き下げようとしていないか

特に注意したいのは、法改正への対応と、既存の労働条件・福利厚生の変更は別問題だという点です。

この記事では、タイ現地法人が実務上確認すべきポイントを中心に整理します。

2025年改正の概要

タイ労働省によれば、労働者保護法第9号 B.E.2568(2025)は2025年12月7日に施行され、産休の延長、出産・育児関連休暇の新設、会社負担賃金の増加などが含まれています。

主な変更点は、次の通りです。

  • 産休が98日から120日に延長
  • 産休中に会社が賃金を支払う日数が45日から60日に増加
  • 新生児に疾病・障害・合併症リスクなどがある場合、追加で最大15日の休暇を取得可能
  • その追加休暇について、会社は通常賃金の50%を支払う
  • 出産した配偶者を支援するため、従業員は最大15日の休暇を取得可能
  • 配偶者出産支援休暇について、会社は通常賃金を支払う

つまり、今回の改正は、女性従業員の産休だけでなく、配偶者の出産を支援する従業員にも関係する改正です。

まず確認したい「産休」の意味

最初に確認すべきなのは、タイ労働者保護法上の「産休」が何を指すのかです。

「産休120日」と聞くと、出産後に120日間休める制度と理解しがちです。
しかし、タイ法上の産休は、出産後の休暇だけを意味するものではありません。

産休には、主に次のものが含まれます。

  • 出産のための休暇
  • 妊娠中の検診、いわゆる妊婦健診のための休暇

したがって、改正後の120日は、

出産後に必ず120日休める

という意味ではなく、

妊娠中の検診等のための休暇も含めて、1回の妊娠につき最大120日まで産休を取得できる

と理解する方が実務上は安全です。

妊婦健診の休暇も産休枠で管理する

会社側で注意したいのは、妊婦健診のために取得した休暇を、通常の病気休暇や有給休暇とは別に、産休枠として管理する必要がある点です。

例えば、妊娠中の女性従業員が、出産前に複数回、妊婦健診のために休暇を取得した場合、その日数も産休の枠内で累計管理される可能性があります。

そのため、会社側では少なくとも次の点を確認できるようにしておくべきです。

  • 出産予定日
  • 産休開始日
  • 妊婦健診のために取得した休暇日数
  • 出産のために取得する休暇日数
  • 産休120日のうち、すでに何日取得済みか
  • 会社が賃金を支払う60日分をどこに充てるか

産休を「出産後のまとまった休暇」とだけ理解していると、妊婦健診分の管理が漏れる可能性があります。

産休中の会社負担は最大60日

改正後、会社は産休中の賃金について、通常の労働日の賃金相当額を最大60日分支払う必要があります。従来は最大45日分でしたので、会社負担が増えたことになります。

ここで注意したいのは、120日すべてを会社が有給扱いにするという意味ではないことです。

改正後の基本的な理解は、次の通りです。

  • 産休取得可能日数:最大120日
  • 会社が通常賃金を支払う日数:最大60日
  • 残りの期間については、社会保険制度や会社独自制度との関係を確認

したがって、給与計算上は、単に「120日休み」と処理するのではなく、どの期間を会社負担の有給扱いとするかを明確にしておく必要があります。

月給制と日給制・時給制では給与計算上の注意点が異なる

今回の記事で特に確認しておきたいのが、この点です。

「産休120日」「会社負担60日」という数字だけを見ると、すべての従業員について同じように日数を数え、同じように給与計算すればよいように見えます。

しかし、実務上は、休暇として取得できる日数と、賃金支払の対象となる日数を分けて考える必要があります。

産休120日という休暇枠そのものは、原則として暦日、つまりカレンダー上の日数として管理されます。
一方で、会社が賃金を支払う日数については、月給制の従業員と、日給制・時給制・出来高制の従業員で、確認すべき点が異なります。

月給制の従業員の場合

月給制の従業員は、通常、週休日や会社休日も含めて月額給与が設定されています。

そのため、産休中の有給部分についても、月給の中でどの期間を通常賃金支給対象として扱うのか、給与締日との関係でどの月にいくら支給するのかを確認する必要があります。

例えば、産休開始日から60日分を会社負担の有給期間として処理するのか、給与締日をまたぐ場合にどのように月割・日割計算するのかを、給与計算担当者や会計事務所と事前に確認しておくべきです。

日給制・時給制・出来高制の従業員の場合

日給制・時給制・出来高制の従業員については、月給制と同じ感覚で処理すると、誤りが生じる可能性があります。

特に確認すべきなのは、次の点です。

  • 産休期間中の週休日を賃金支払対象に含めるのか
  • 通常の労働日に相当する日を基準にするのか
  • 祝日や会社休日をどう扱うのか
  • 出来高制の場合、平均賃金をどの期間で計算するのか
  • 給与明細上、産休有給分をどのように表示するのか

製造業、倉庫業、飲食業、小売業など、日給・時給制の従業員が多い会社では、特に慎重に確認した方がよいでしょう。

新生児に医療上の問題がある場合の追加休暇

今回の改正では、女性従業員が産休を取得した後、新生児に疾病、障害、合併症リスクなどがある場合、追加で最大15日の休暇を取得できるようになりました。

この休暇については、医師の診断書が必要とされ、会社は通常賃金の50%を支払う必要があります。

この休暇は、通常の病気休暇や無給休暇とは異なる性質を持つため、給与計算上も別区分で管理する方がよいでしょう。

会社側では、次の点を確認しておく必要があります。

  • どのような医師の診断書を求めるか
  • 診断書の原本または写しをどのように保管するか
  • 50%賃金支給を給与計算でどのように処理するか
  • 産休終了後に連続して取得する場合、勤怠システム上どう登録するか

配偶者出産支援休暇は「男性社員だけの制度」ではない

今回の改正では、出産した配偶者を支援するための休暇も新設されました。

この制度は、日本語では「父親休暇」や「男性社員の育休」と説明されることがあります。
しかし、記事ではこの表現には注意が必要です。

労働者保護法改正では、従業員が「出産後の配偶者を支援するため」に最大15日の休暇を取得できるとされています。制度の対象は、従業員本人の性別によって限定されているわけではありません。

そのため、要件の中心は、

従業員に、出産した法律上の配偶者がいること

と考えるのが自然です。

タイでは、2025年1月23日から婚姻平等法が施行され、同性カップルも法律上婚姻できるようになりました。

したがって、たとえば女性従業員の法律上の女性配偶者が出産した場合にも、この配偶者出産支援休暇の対象となる可能性があります。

一方で、出産した従業員本人については、配偶者出産支援休暇ではなく、産休制度の対象になります。

社内規程では「妻の出産」ではなく「法律上の配偶者の出産」と書く

社内規程や休暇申請書式では、次のような表現は避けた方がよいでしょう。

男性社員は、妻の出産時に休暇を取得できる。

この書き方では、制度の対象を男性社員に限定しているように見えます。

現在のタイ法制を踏まえると、次のような表現の方が安全です。

従業員は、法律上の配偶者が出産した場合、配偶者を支援するための休暇を取得できる。

また、事実婚や未登録パートナーまで対象に含めるかどうかは、法定制度とは別に、会社独自の福利厚生として慎重に整理すべきです。

法定制度として記事に書く場合は、対象を「法律上の配偶者」として説明するのが安全です。

配偶者出産支援休暇の取得時期

配偶者出産支援休暇は、最大15日まで取得できます。

実務上は、次の点を休暇申請書式に入れておくとよいでしょう。

  • 配偶者の氏名
  • 法律上の婚姻関係を確認する資料
  • 出産予定日または出産日
  • 取得希望日
  • 連続取得か分割取得か
  • 取得済み日数
  • 残日数

特に、分割取得を認める場合は、勤怠管理システム上で残日数を管理できるようにしておく必要があります。

「就業規則を更新すればよい」とは限らない

今回の改正対応で、最も注意したいのが就業規則です。

タイでは、10名以上の従業員を雇用する使用者は、タイ語の就業規則を作成し、事業所内で従業員が確認できるようにしておく必要があります。また、就業規則を変更した場合は、変更後7日以内に公告する必要があります。

しかし、これはあくまで「就業規則を変更した場合の手続き」です。

就業規則に書けば、会社がどのような労働条件でも一方的に変更できる、という意味ではありません。

特に、従業員にとって不利益となる労働条件の変更については、慎重な確認が必要です。

法令対応と福利厚生の引き下げは別問題

今回の改正では、次の2つを分けて考える必要があります。

法律に合わせるための修正

例えば、古い就業規則に、

産休は98日まで
会社は45日分を有給扱いとする

と書かれている場合、改正後の法律と整合しません。

この場合、少なくとも法律を下回らないように、

産休は120日まで
会社は60日分を有給扱いとする

といった修正を検討する必要があります。

これは、法律に合わせるための修正です。

既存福利厚生を引き下げる変更

一方で、会社がすでに法律を上回る制度を設けている場合は注意が必要です。

例えば、会社がすでに、

産休98日すべてを会社が有給扱いにしている

という制度を設けていた場合、改正後に、

法律上は60日分でよいので、会社負担は60日にします

と単純に変更できるとは限りません。

これは、従業員から見ると既存の福利厚生の引き下げになる可能性があります。

このような場合は、法改正対応というよりも、労働条件の不利益変更に該当し得るため、会社だけで判断せず、タイの労務専門家に確認することをお勧めします。

会社が実務で確認すべきこと

今回の改正を受けて、タイ現地法人では、少なくとも次の点を確認しておくとよいでしょう。

1. 就業規則・雇用契約・社員ハンドブック

  • 産休日数が98日のままになっていないか
  • 会社負担の有給日数が45日のままになっていないか
  • 妊婦健診の休暇を産休として扱っているか
  • 配偶者出産支援休暇の記載があるか
  • 「男性社員」「妻」など、対象を限定する表現になっていないか
  • 法律を上回る福利厚生を設けていないか
  • その福利厚生を誤って引き下げようとしていないか

特に、就業規則、雇用契約、社員ハンドブック、人事マニュアルで記載が異なる場合、後でトラブルになる可能性があります。

2. 給与計算ルール

  • 産休中の60日有給に対応しているか
  • 月給制と日給・時給制で同じ処理をしていないか
  • 週休日・祝日の扱いを確認しているか
  • 出来高制の平均賃金計算を確認しているか
  • 追加育児休暇の50%支給に対応しているか
  • 配偶者出産支援休暇の100%支給に対応しているか
  • 給与計算代行会社に改正内容を共有しているか

外部の会計事務所や給与計算代行会社に任せている場合でも、会社側で最低限の確認は必要です。

特に、古い計算ロジックのまま、産休45日有給で処理されないように注意が必要です。

3. 休暇申請書式

産休については、次の項目があると管理しやすくなります。

  • 出産予定日
  • 産休開始日
  • 産休終了予定日
  • 妊婦健診のための休暇取得日
  • 取得済み産休日数
  • 会社負担有給日数
  • 医師の診断書の有無

配偶者出産支援休暇については、次の項目を追加するとよいでしょう。

  • 法律上の配偶者の氏名
  • 出産予定日または出産日
  • 婚姻関係を確認する資料
  • 取得希望日
  • 取得日数
  • 分割取得の有無
  • 取得済み日数
  • 残日数

追加育児休暇については、医師の診断書の確認・保管方法も定めておく必要があります。

4. 勤怠管理システム

勤怠管理システム上、次の休暇区分を分けて登録できるか確認しておくとよいでしょう。

  • 産休
  • 妊婦健診のための産休
  • 追加育児休暇
  • 配偶者出産支援休暇
  • 通常の病気休暇
  • 通常の有給休暇
  • 無給休暇

休暇区分が曖昧なままだと、給与計算、社会保険、残日数管理で誤りが出る可能性があります。

日本本社に説明する際のポイント

タイ現地法人の場合、日本本社から、

なぜ人件費が増えるのか
なぜ休暇日数が増えるのか
なぜ就業規則や給与計算を見直す必要があるのか

と聞かれることがあります。

その場合は、次のように説明すると分かりやすいです。

タイでは2025年12月7日から労働者保護法が改正され、産休が98日から120日に延長されました。
また、会社が賃金を支払う産休期間も45日から60日に増えています。
さらに、新生児に医療上の問題がある場合の追加休暇、出産した配偶者を支援するための休暇も新設されました。
そのため、給与計算、休暇管理、就業規則、雇用契約、社内申請書式の確認が必要です。

日本本社に説明する際は、単なる「法律改正」ではなく、人件費・勤怠管理・給与計算・社内規程に影響する変更として説明すると理解されやすくなります。

実務チェックリスト

最後に、会社側で確認すべき項目をまとめます。

社内規程・契約関係

  • 就業規則の産休日数が120日になっているか
  • 会社負担有給日数が60日になっているか
  • 妊婦健診の休暇を産休枠で管理しているか
  • 配偶者出産支援休暇の規定があるか
  • 「男性社員」「妻」など、対象を狭くする表現が残っていないか
  • 法律を上回る福利厚生を誤って引き下げようとしていないか
  • 雇用契約や社員ハンドブックと就業規則に矛盾がないか

給与計算

  • 産休中の60日有給に対応しているか
  • 月給制と日給・時給制で同じ処理をしていないか
  • 週休日・祝日の扱いを確認しているか
  • 出来高制の平均賃金計算を確認しているか
  • 追加育児休暇の50%支給に対応しているか
  • 配偶者出産支援休暇の100%支給に対応しているか
  • 給与計算代行会社に改正内容を共有しているか

申請・証明書類

  • 出産予定日・出産日を確認する資料を定めているか
  • 妊婦健診の休暇取得日を管理しているか
  • 医師の診断書の提出・保管方法を定めているか
  • 法律上の配偶者であることを確認する方法を定めているか
  • 分割取得した場合の残日数管理ができるか

社内説明

  • 人事・総務・経理で改正内容を共有しているか
  • 現場責任者が新しい休暇制度を理解しているか
  • 日本本社に人件費・休暇管理への影響を説明しているか
  • 従業員向けの案内文を準備しているか

まとめ

今回のタイ労働者保護法改正は、単なる「産休120日」の話ではありません。

産休には、出産のための休暇だけでなく、妊婦健診のための休暇も含まれます。
会社が賃金を支払う日数は最大60日となり、従来より会社負担が増えています。

また、新生児に医療上の問題がある場合の追加休暇、出産した配偶者を支援するための休暇も新設されました。

特に、配偶者出産支援休暇については、男性社員だけを対象とする制度ではなく、法律上の配偶者が出産した場合に取得できる休暇として整理するのが安全です。

会社としては、就業規則、雇用契約、社員ハンドブック、給与計算、休暇申請書式、勤怠管理システムを確認する必要があります。

ただし、ここで注意したいのは、法改正対応と、既存福利厚生の引き下げは別問題だということです。

法律を下回る古い規程を修正することは必要ですが、すでに法律を上回る制度を設けている場合、それを一方的に引き下げられるとは限りません。

タイ現地法人では、まず現在の社内規程と実際の運用を確認し、必要に応じてタイの労務専門家に相談しながら対応することをお勧めします。



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