Work Permit・滞在許可・サイン権限は分けて考える
タイで会社を経営していると、外国人が親会社と子会社、あるいは関連会社の役員を兼任する場面があります。
たとえば、日本人がA社のManaging Directorとしてタイで労働許可と滞在許可を取得しており、その後、A社の子会社または関連会社であるB社のManaging Directorも兼任する、というケースです。
このような場合、単純に「MDになれるか」「サインできるか」「Work Permitに追加できるか」だけで考えると、制度の全体像を見誤ることがあります。
タイでは、次の問題を分けて考える必要があります。
・会社法上、役員・代表者になれるか
・労働許可(Work Permit)上、その会社で働けるか
・入国管理局の滞在許可更新で問題にならないか
・会社代表者として署名・手続きを行えるか
本稿は、外国人MDが関連会社を兼任する場合の実務上の論点を整理するものです。
タイにおける外国人就労・滞在制度の基本的な考え方については、先に「タイは外国人を歓迎しているのか、管理しているのか」をお読みいただくと、背景がより分かりやすいと思います。
本稿の対象
本稿で扱うのは、主に日本人など、一般の Non-Immigrant B Visa と Work Permit によりタイで働く外国人を想定しています。
カンボジア、ラオス、ミャンマーなど周辺国からのMOU労働者、国境地域での季節労働者・一時労働者、BOIやIEATなどの特別制度に基づく就労は、別制度で扱われる場合があるため、本稿では一般論として扱いません。
また、本稿は「こうすれば必ず認められる」という手続きマニュアルではありません。
タイの外国人就労・滞在許可は、会社形態、資本構成、就労実態、管轄官庁、担当官の判断によって運用が変わることがあります。
1. 会社法上MDになれることと、タイ国内で働けることは別問題
まず大前提として、外国人がタイ法人の取締役やManaging Directorになること自体と、その外国人がタイ国内で働くことは、別の問題です。
会社登記上、外国人が取締役や代表者として登録されることはあり得ます。
しかし、その外国人がタイ国内で会社代表者として業務を行う場合には、Work Permitの問題が出てきます。
タイの外国人就労管理制度では、外国人の「就労」は比較的広く捉えられます。報酬を受け取るかどうかだけではなく、タイ国内で職業・業務に関わる行為をする場合、Work Permitの対象となり得ます。外国人就労管理緊急勅令の英訳資料でも、work は報酬の有無にかかわらず身体または知識を用いて職業・業務に従事することと説明されています。
したがって、外国人MDについては、
登記上MDであること
タイ国内でMDとして業務を行えること
その業務が滞在許可更新の根拠として認められること
を分けて考える必要があります。
2. Work Permit上は「追加雇用主/追加事業所」という考え方がある
すでに1社分のWork Permitを持っている外国人が、もう1社の役員やMDを兼任する場合、労働省側では、既存のWork Permitに記載事項を追加・変更する手続きが問題になります。
労働省雇用局の公式フォームである บต.44(WP.44)は、Work Permitの記載事項変更申請書です。英語表記でも “Request Form for Making Change(s) to Particulars of the Work Permit” とされており、Work Permitの記載事項に変更がある場合の申請様式として用意されています。
また、労働省雇用局のダウンロードページにも、บต.44 が「労働許可書の記載事項変更申請」として掲載されています。
実務上は、外国人がA社のWork Permitを持っており、B社を追加する場合、B社を追加雇用主または追加事業所として扱えるかが論点になります。
労働省の公開Q&Aでも、すでに1社分のWork Permitを持つ外国人役員が、もう1社を既存のWork Permitに追加したい場合について、雇用主/事業所の追加申請が可能であり、WP.44による記載事項変更申請、さらに就労開始後15日以内の届出が必要である旨の回答が示されています。
ここから分かるのは、少なくとも労働省側では、
すでにWork Permitを持つ外国人について、2社目を既存のWork Permitに追加する手続きが想定されている
ということです。
ただし、ここで注意すべきなのは、これはあくまで労働許可上の話だということです。
Work PermitにB社を追加できたとしても、それだけで次回の滞在許可更新が自動的に問題なく通るわけではありません。
3. 入管の滞在許可更新は、Work Permitとは別に考える
外国人MDの兼任で最も注意すべきなのは、労働省のWork Permitと、入国管理局の滞在許可更新は別制度だという点です。
労働省では、B社をWork Permitに追加できる可能性があります。
しかし、入国管理局が見るのは、「その外国人がどの会社を根拠にタイに滞在し続けるのか」です。
2025年1月23日付の入管命令 12/2568 では、ビジネス上の必要による滞在延長について、外国人本人の所得、会社の資本金、財務諸表、事業実態、タイ人常勤従業員数などが審査対象として示されています。一般的なビジネス滞在延長では、外国人1名に対してタイ人常勤従業員4名という基準も示されています。
このとき重要なのは、入管が審査するのは、基本的には「滞在延長の根拠となる会社」だということです。
たとえば、A社が外国人MDの主たる勤務先であり、給与、納税、社会保険、タイ人雇用、事業実態もA社で説明する場合、A社が滞在許可更新の中心になります。
一方で、B社もWork Permitに記載されている場合、入管担当官がB社の存在に関心を持つ可能性はあります。
その場合、B社がどのような会社なのか、A社との関係は何か、外国人MDがB社でどのような立場にあるのかを説明できるようにしておく必要があります。
4. B社が無報酬・非常勤の場合の考え方
外国人MDがA社を主たる勤務先とし、B社では無報酬・非常勤の役員を兼任する場合、実務上は次のように整理するのが自然です。
A社が滞在許可更新の根拠会社である。
外国人MDの給与、納税、社会保険、タイ人雇用要件はA社で説明する。
B社はA社の子会社または関連会社であり、グループ管理上の必要から非常勤・無報酬で役員を兼任している。
B社は滞在許可更新の根拠会社ではない。
この整理であれば、B社から給与が支払われていないこと、B社で社会保険加入が発生しないこと、B社で常勤勤務していないことを説明しやすくなります。
ただし、ここで「B社には絶対に最低給与やタイ人4名要件は不要」と断定するのは危険です。
公開情報だけを見る限り、B社が無報酬・非常勤の追加先である場合に、B社にもA社と同じ最低給与・タイ人雇用要件を必ず求める、という明文は確認しにくいです。
一方で、B社がWork Permitに記載されている以上、入管担当官がB社について追加説明を求める可能性は残ります。
したがって、実務上は「不要か必要か」を抽象的に議論するよりも、次の資料を準備しておく方が現実的です。
・A社が主たる勤務先であることを示す説明書
・A社が滞在許可更新の根拠会社であることを示す説明書
・B社がA社の子会社または関連会社であることを示す資料
・B社では無報酬であることを示す会社レター
・B社では非常勤であることを示す説明書
・B社役員を兼任する事業上の理由
・B社を追加したWork PermitまたはWP.44関係資料
大切なのは、B社の存在を隠すことではありません。
A社、B社、外国人MDの関係を、矛盾なく説明できる形に整えておくことです。
5. 「2社目に追加できる」と「2社目で自由に働ける」は同じではない
ここは特に誤解しやすいところです。
Work PermitにB社を追加できたとしても、それは「B社で何をしてもよい」という意味ではありません。
Work Permitには、通常、雇用主、職務内容、就労場所などが記載されます。
外国人は、その許可された範囲で働くことになります。
つまり、B社を追加する場合でも、
・どの会社で
・どの職務として
・どの場所で
・どの程度の関与をするのか
を整理する必要があります。
特に、B社で報酬を受ける場合、B社で常勤的に勤務する場合、B社が実質的な主勤務先になる場合には、B社側の給与、税務、社会保険、タイ人雇用数、会社実態がより強く問題になる可能性があります。
反対に、B社では無報酬・非常勤であり、A社が主たる勤務先である場合は、その違いを資料で明確にしておくことが重要です。
6. Work Permitがない外国人MDのサイン行為
もう一つ、外国人MDに関してよく問題になるのが、Work Permitを持たない外国人MDのサイン行為です。
外国人がタイ法人のMDとして登記されているものの、タイのWork Permitを持っていない場合、その外国人がタイ国内で会社代表者として業務上の署名・手続きを直接行うことは、就労と見られるリスクがあります。
一方で、実務上、外国人MD本人が直接動くのではなく、委任状に基づいて代理人・弁護士等を通じて手続きを行う方法があります。
労働省雇用局のWork Permit関連資料では、外国人の雇用主がタイで働いていない、またはWork Permitを持っていない場合、Notary Publicおよびタイ大使館で認証されたPower of Attorneyが必要である旨が示されています。
このことから、少なくとも労働省側の実務資料では、
外国人代表者本人がタイで働かない、またはWork Permitを持たない場合に、委任状を用いて代理人を立てる方法
が想定されていると理解できます。
ただし、これは「弁護士を通せばWork Permitなしで自由に業務ができる」という意味ではありません。
正確には、
外国人MD本人がWork Permitなしでタイ国内の業務行為を直接行うことは避けるべきである。
その代わり、適切に作成・認証された委任状または署名済み書類に基づき、代理人・弁護士等を通じて手続きを行う。
弁護士等は、本人の意思、署名の真正性、代理権を確認したうえで、手続きを進める役割を果たす。
という整理になります。
7. 署名認証と代理手続きは分けて考える
ここでもう一つ重要なのは、単なる「代理人」と「署名認証者」は同じではないという点です。
代理人は、委任状に基づいて本人のために手続きを行う人です。
一方で、署名認証者は、その書類に記された署名が本人のものかどうかを確認・認証する役割を持つ人です。
DBD、すなわちタイ商務省事業開発局の資料では、会社登記申請書類の署名について、署名者本人が署名すること、また本人が登記官の面前で署名できない場合には、一定の者の面前で署名し、その署名を認証する手続きが示されています。
また、DBDの署名認証者制度では、「ผู้รับรองลายมือชื่อ」、すなわち署名認証者について、登録された弁護士または公認会計士が該当する旨が示されています。
したがって、外国人MDのサイン行為については、
・MD本人が直接業務行為をしているのか
・署名済み書類を提出しているだけなのか
・委任状に基づいて代理人が手続きしているのか
・署名の真正性を誰が認証しているのか
を分けて考える必要があります。
弁護士等が関与する意味は、単に「代わりにサインする」ということではありません。
本人の意思、署名の真正性、代理権を確認し、手続きの受理可能性を高める点にあります。
8. 実務上のチェックリスト
外国人MDが関連会社を兼任する場合には、少なくとも次の点を事前に確認しておくべきです。
・外国人MDの主たる勤務先はどの会社か
・滞在許可更新の根拠会社はどの会社か
・2社目はWork Permitに追加されているか
・2社目で報酬が発生するか
・2社目で常勤勤務するのか、非常勤なのか
・2社目が子会社・関連会社であることを説明できるか
・2社目の役員兼任が事業上なぜ必要なのか
・給与、PND1、社会保険、個人所得税申告はどの会社で説明するのか
・入管更新時に提出する会社資料はどの会社を中心にするのか
・Work Permit上の記載と実際の役割が一致しているか
・サイン行為を本人が行うのか、代理人・弁護士等を通じて行うのか
・委任状や署名認証が必要か
このチェックリストの目的は、「担当官に見つからないようにする」ことではありません。
むしろ逆です。
担当官に聞かれたときに、
なぜこの外国人がA社に必要なのか
なぜB社の役員も兼任する必要があるのか
どの会社が滞在許可更新の根拠なのか
報酬・税務・社会保険はどこで発生しているのか
Work Permitの記載と実態に矛盾がないか
を説明できるようにしておくことが重要です。
9. タイでは「できるか」より「説明できるか」が重要
タイの外国人制度では、「できますか」「できませんか」と質問しても、必ずしも一つの明確な答えが返ってくるとは限りません。
ある制度では可能に見える。
別の制度では慎重な確認が必要になる。
担当官によって、提出資料や説明を求められる範囲が変わることもあります。
これは、タイの制度が曖昧だからというだけではありません。
タイは、外国人の滞在と就労を、常に条件付きのものとして管理しているからです。
したがって、外国人MDの兼任問題で大切なのは、単に「2社目を追加できるか」ではありません。
重要なのは、
その外国人が、なぜその会社に必要なのか。
なぜ関連会社の役員を兼任する必要があるのか。
その立場、報酬、勤務実態、滞在根拠を、矛盾なく説明できるか。
ということです。
まとめ
外国人MDがタイで関連会社を兼任する場合、会社法、Work Permit、滞在許可、署名権限を分けて考える必要があります。
Work Permit上は、既存の労働許可に雇用主または事業所を追加する手続きが想定されています。
しかし、それは入管の滞在許可更新が自動的に問題なく認められることを意味しません。
A社を滞在許可更新の根拠会社とし、B社では無報酬・非常勤の役員を兼任する場合には、A社を中心に給与、納税、社会保険、タイ人雇用、事業実態を説明し、B社については子会社・関連会社関係、無報酬・非常勤、役員兼任の必要性を整理しておくことが重要です。
また、Work Permitを持たない外国人MDのサイン行為については、本人がタイ国内で直接業務行為を行うことは避け、必要に応じて適切な委任状、署名認証、代理人・弁護士等を通じた手続きとして整理する必要があります。
タイで外国人MDとして活動するうえで大切なのは、抜け道を探すことではありません。
自分の役割、会社との関係、報酬、勤務実態、滞在根拠、署名権限を、制度上も実務上も説明できる形に整えておくことです。
タイでは、「できるかどうか」だけでなく、
「なぜその形が必要なのかを説明できるか」 が、非常に重要なのだと思います。
本記事は、公開情報および実務上の論点を整理したものであり、個別案件に対する法的助言ではありません。タイのWork Permitおよび滞在許可の運用は、会社形態、資本構成、就労実態、管轄官庁、担当官の判断により異なる場合があります。実際の申請・更新・役員就任・署名手続きにあたっては、本記事の内容のみを根拠とせず、必ず管轄官庁または当該分野を取り扱う有資格者に個別確認を行ってください。
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